世界の穴 ~哲学者たち水族館へ行く~
哲学者たちと水族館へ。
そのなかには家族連れの哲学者もいた。
小さな息子さんの輝く魂は
好奇心に満ちて、
得体の知れない生き物たちに
眠る間もなく見入っていた。
大人の僕でさえ、
見たことのない生き物がまだまだいることを知り、
地球の広さを思うと途方に暮れそうだった。
かろうじて見たことがあるかもしれない
フグのようなのが漂いながら、
口をあけていた。
「見て、口あけてる、かわいい」
と女性の哲学者が言うと、
もう一人の女性哲学者が身震いしておびえた。
どうして怖がるのかを聞くと、
なかば吐き捨てるようにこう言った。
「世界の穴みたい」
男の子はアザラシがとくに気に入ったようで、
水槽のガラスから離れようとしない。
泳ぐアザラシも男の子に興味をもったようで、
男の子を見ながらゆっくり近づいてきては、
水中をぐるりと一周して、
また男の子を見ながらゆっくり近づいてくる、
ということをくり返していた。
一緒に遊びたいのかなと思っていたが、
男の子を正面から見つめるその両目が、
慈愛に満ちあふれていることに気づき、
僕は頭がくらくらしてしまった。
世界の穴はそんなところにもあった。
ボーロ