ジャコメッティの樹
立像から始まった。
プラトンの人間論、
人間は頭から下へ向かって生えた樹である、
という説を思い出していた。
ジャコメッティの立像たちは、
どうやら頭から生えているのではなさそうだ。
さて、これらはどこから生えているのか?
足下はしっかりとしているが、
植物のように下から生えているようには見えない。
「浮遊」という言葉も見かけたが、
本当に浮遊しているだけだろうか。
そうして観て進むうち、
思い当たった。
大腿?
いやちがう、膝だ。
膝から上へ、そして膝から下へと生えている。
そのように見えているものを
自分の身体へと移しかえると、
膝に充実感がおこり、
自分が膝にいる感覚を味わえた。
そういえば小林先生に、
「地を天につなぐのは膝だよ」
と言われたのだった。
僕に見えたジャコメッティの場合、
膝から生えているのは立像だけだった。
胸像では、胸の上から首が生えたり、
顔の彫刻では、真ん中のところから鼻が生えたりしていた。
7月に観たヴォルスは、
宇宙に遍在する形を探求していた。
ジャコメッティは、
宇宙に遍在する〈生える〉ということを、
探求の主題の一つにしていたのではないだろうか。
ボーロ